2015.6.19

防水時計の落とし穴

最近の腕時計は、ほとんどが何かしらの「防水」性を掲げているはずだ。特に潜水目的用ではないものでも、「生活防水」から「10気圧防水(水深100m相当)」ぐらいまでは当たり前に見かける。少々の雨はもちろん、タライで水洗いするぐらい問題なしとなれば便利なものだが、例えば10気圧防水なら海水浴ぐらいお茶の子さいさい、という認識は少々危険である。

確かに、水上バイクにでも乗るならともかく普通に泳ぐ程度では、水を掻く水圧や波の水圧自体は1気圧にも遠く及ばない(もし1気圧もあれば10cm四方の掌に100kgの衝撃力がかかっているはずだ)。だが隅々まで丹念に洗わないと、海水で錆びる危険性はある。酸性の温泉にでも持ち込めばなおさらだ。そして洗う場合も、水道の蛇口を全開にして3気圧行くかどうかだそうだが、ただの水ではなく洗剤を使うと表面張力が下がるため、浸水の恐れが増す。古い時計なら部品の継ぎ目や防水パッキンが緩んでいるかもしれない。温度状況によっては、そうした隙間が膨張拡大している恐れもあるし、液体の水が通らなくとも湿気が入り込んだ時計を冷やせば、内部で結露してしまうだろう。

なお、一般的には「耐水」性がある(water registant)とは表面が濡れても大丈夫なこと、「防水」性がある(water proof)というと内部に水が入らないことを意味する。例えばスーパーのビニール袋は、registantではあるがproofとは言いがたい。時計の革バンドを海水に浸けた場合、ある意味、proofだとしてもregistantではないかもしれない。

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ケンテックス・マリンマンシーホース。ISO6425の200m divers基準に適合する。200m防水を謳うためには実際、1.25倍である25気圧(250m相当)の加圧試験が必要だ。人間が潜れる深度とは言え、蒸気機関車のボイラーの圧力と同等以上である。

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同じくJSDFプロ海上自衛隊モデル。やはり200m防水だがdiversではない。


ダイバーズ規格

逆に言えば本格的なダイバーズウォッチの場合、ただ単に一定の静水圧に耐えられさえすればよいわけではない。耐食性等も含めた実用的な試験が必要となる。ボンベ等の潜水用具には鉄製のものも多いから、一見意外に思われるが耐磁性能までも含まれる。

その基準は日本ではJIS B7023、世界ではISO 6425として定められている。JISはISOを元にしているためほぼ同内容である。「○○m防水」の時計と言っても海水か真水か、水温がどうか等によって実際の水圧には差があるため、安全範囲として、謳っている深度10mあたり1.25気圧の加圧試験が課せられている。

潜水時計基準の概要
  JIS B7023 ISO 6425
耐圧性 100m(約10気圧)以上
1分以内に防水深度の1.25倍の静水圧にさらし2時間保持、
さらに1分以内に加圧を0.3気圧まで減らして1時間保持、
さらに1分以内に加圧をなくす
100m(約10気圧)以上
1分以内に防水深度の1.25倍の静水圧にさらし2時間保持、
さらに1分以内に加圧を0.3気圧まで減らして1時間保持、
さらに1分以内に加圧をなくす
タイムプリセレ
クティング装置
回転ベゼル又はデジタル表示装置等が必要
回転ベゼルには不慮の回転防止又は誤作動防止の配慮
全周にわたって1分目盛、5分ごとの目盛強調
逆回転防止ベゼル又はデジタル表示装置等が必要
それらには不慮の回転防止又は誤作動防止の配慮
回転ベゼルには全周にわたって1分目盛、5分ごとの目盛強調
判読性 暗い所で25cmの距離から目視によって
・時刻表示
・タイムプリセレクティング装置の表示
・時計の作動(秒針の動き,秒コロンの点滅など)
・電池切れ予告表示(電池式なら)
が確認可能
暗い所で25cmの距離から目視によって
・時刻表示
・タイムプリセレクティング装置の表示
・時計の作動(両端が光る秒針の動きなど)※完全な闇でも
・電池切れ予告表示(電池式なら)
が確認可能
耐磁性 JIS B7024 1種耐磁性能(4800A/m) 4800A/mの直流磁界に3度曝して日差30秒以内を維持
耐衝撃性 JIS B7001
(3kgのハンマーを4.43m/sで9時方向と正面から打撃)で
日差60秒以内を維持
3kgのハンマーを4.43m/sで9時方向および正面から打撃し
日差60秒以内を維持
耐塩性 30g/lの食塩水に24時間浸けて
ケース、付属品、回転ベゼルに錆などの異常がないこと
30g/lの食塩水に24時間浸けて
ケース、付属品、回転ベゼルに異常がないこと
バンド耐外力性 バンドを締めた状態で200N(約20kg重)の力で引っ張り
構成部品の外れ,位置ずれなどの異常がないこと
バンドを締めた状態で200N(約20kg重)の力で引っ張り
時計との接点にダメージがないこと
操作部防水性 操作部に5N(約0.5kg重)の力を加え
防水深度の1.25倍の水圧下に10分間浸して
ガラス内面に曇りが発生せず正常に作動すること
操作部に5N(約0.5kg重)の力を加え
防水深度の1.25倍の水圧下に10分間浸して
ガラス内面に曇りが発生せず正常に作動すること
耐熱衝撃性 40℃→5℃→40℃の水中(水深30cm)に10分ずつ浸して
ガラス内面に曇りが発生せず正常に作動すること
40℃→5℃→40℃の水中(水深30cm)に10分ずつ浸して
ガラス内面に曇りが発生せず正常に作動すること
耐結露性 加熱板で40~45℃まで加熱後、
ガラス上に18~25℃の水滴を垂らして(または濡れ布)
ガラス内面に曇りが発生せず正常に作動すること
(曇りがあっても1分以内に消えれば問題なし)
加熱板で40~45℃まで加熱後、
ガラス上に18~25℃の水滴を垂らして
ガラス内面に曇りが発生せず正常に作動すること
耐浸漬性 水深30cmの水中に50時間浸して
ガラス内面に曇りが発生せず正常に作動すること
水深30cmの水中に50時間浸して
ガラス内面に曇りが発生せず正常に作動すること

JISの場合、潜水時計には空気潜水用の第1種(100~200m防水)と、混合ガス潜水用の第2種(200m防水以上)があり、2種はさらに耐高圧混合ガス試験もクリアしなければならない。ISOでは(激しい)マリンスポーツや素潜り用までがwater registant、スキューバ潜水に耐えるものがdivers、さらに混合ガス潜水(大深度では窒素が危険になるため普通の空気は使わない)に耐えるものがdivers for mixed-gas divingと表記される。

こうした基準ができてくるまでには、防水・潜水時計の進化の歴史があり、それを踏まえて回転ベゼルがどう、混合ガスがどうという要件が定められているわけだ。そこで、続いてはその歴史のほうに目を向けてみたい。