それはヨーロッパの古城を思わせるたたずまい。

  近代土木遺産は2015年、世界遺産登録への動きとあいまって、にわかに脚光を浴びはじめている。ダム技術史に刻まれる日本唯一のマルチプルアーチ式ダムが香川県観音寺市の山中にある。石積みで五つの小さなアーチを連ね、バットレス式堰堤の特徴も併せもつ威容が年月と風雨にさらされて醸成された景観は、さながら中世ヨーロッパの古城を思わせる。

 山々の緑に囲まれた堅牢な楼閣からごうごうと吐き出される水は四体の白龍のようだ。放水に使われている洪水吐はサイフォン式になっており、これは大正時代の技術者が工夫をこらした日本独自の発想だ。大正から昭和初期にかけての農業土木、ダム技術の結晶ともいうべき近代産業遺産であり、「豊稔池堰堤」の登録名で文化遺産にも指定されている。 豊稔池は世界遺産の構成要素にはなっていないが、今後、こういった産業遺産への注目は高まっていくだろう。 7月末に行われる「ゆる抜き」は季節の風物詩になっている。

(文・写真:市原千尋)

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このダムによって形成された貯水池は全国ため池100選にも選定されている。

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中樋取水口として使われていたゲートの金属は長い年月で表面がでこぼこに。

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堰体わきには、取り外されて野ざらしになった旧中樋取水口が、いい味を出している。

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これも取り外され、堰体わきに展示されている旧ゲート。

 

今回の旅のお伴はマリンマン・シーホース。セラミックベゼルを装備したメイド・イン・ジャパンの機械式ダイバーウォッチだ。