日本製腕時計メーカー ケンテックスwebマガジン

ケンテックスオフィシャル
 
 
thumb image

ベトナム・ウォッチ

米ベンラス社ほか、1965年~
コストカットを第一に考えた、米軍の使い捨て腕時計(ディスポーザブル・ウォッチ)。要求仕様MIL-W-46374に従って各社で製造された。小型軽量であるなど、ベトナムでの使用に配慮されている。

直すより買った方が安い

1964年8月のトンキン湾事件を契機に、アメリカはベトナム戦争への介入を強化し、数年後には50万あまりの兵力を派遣することとなる。果たしてそれが既に念頭にあったのか、翌月1964年9月には、米軍は軍用腕時計に関する要求仕様MIL-W-46374を策定している。ここ登場するのがメンテナンス性を無視した使い捨て時計である。クォーツ時計の普及にはまだギリギリ早く、機械式の時代ではあったが、大量の兵員に支給する大量の時計は、保管・修理するより壊れたら買い直す方が安いという結論に至っていたのだ。
戦争中、MIL-W-46374に従って通称「ベトナム・ウォッチ」を製造したのは、ベンラス、ハミルトン、ウエストクロックス、ベルフォルテ(ムーブメントのみ?)の各社で、採用されたムーブメントにはセイコー製のものもあった。MIL-W-46374には数字フォントの規定や、文字盤にブランド名を入れてはならないとの規定がある。針と、数字外側の三角インデックスは(最初期型は「12」の数字も)、トリチウム直接塗装による夜光である。ケースは金属製のものもあるがプラスチックが多く、修理という考えをハナから捨てているため裏蓋は開かなかった。許容誤差は(180日間の作戦行動に供した後で)日差72秒。機械式としては全くの粗悪品とまでは行かないにせよ、精密な作戦管理を要求される将校や特殊部隊員なら、もっと良い時計が必要になっただろう。

蒸し暑いベトナム

トナムの密林地帯は高温多湿であり、「ベトナム・ウォッチ」は小型軽量を旨としていた。大柄な米兵が使う時計なのにケース径は35mm前後(ダイヤル径は28mmほど)、重量は15グラムというから500円硬貨2枚分程度でしかない(米兵のM-16ライフルの実包1発が約12グラムである)。バンドも汗で蒸れにくいナイロン製だが、それでも腕にはめるのを嫌って、胸からぶら提げていた兵も多かったようだ。ベトナム戦争映画の「プラトーン」でも、主人公は新兵時代は立派そうな、銀色の金属バンドの時計を腕にはめているが(雨中夜間の見張りシーンだが夜光時計でもない)、数ヶ月過ぎて一人前になってくると汗吸い用のバンダナを額に巻き、「ベトナム・ウォッチ」に似て見える時計を胸にぶら提げた姿になる。防水性については、水深6フィート3インチ(約190cm)という緩い要求であった。

イラクでも現役

MIL-W-46374はその後、トリチウム使用に伴う放射能マークの表示や、トリチウム直接塗布ではなくトリチウム密閉管への変更(使い捨て時計だけに放射性物質の廃棄も問題であった)、クォーツ時計への対応など、1999年のG版まで改訂が繰り返された。ベトナム戦争後になるがやはりMIL-W-46374系に則ったギャレット社の「マラソン」なども有名で、湾岸戦争時は「デザートストーム」と銘され納入された。現在の米軍はもはや腕時計を標準支給はしていない。