人喰い赤鬼が一晩で築いた99段。

 国東半島は「仏の里」と呼ばれる。半円を思わせる山がちの半島は、ところどころに奇岩が顔を出す。そんな奇岩に古から人々は信仰心を磨崖仏に託してきた。そんな磨崖仏の中でも最大のものが大分県豊後高田市にある熊野磨崖仏だ。
 昔、このあたりの里人は人食い赤鬼に悩まされていた。そこで権現さまが解決にのりだす。赤鬼を呼びだし、夜明けまでにこの場に100段の石段を築くことができたら、お前のすることを認めよう、という難題を出した。ところが赤鬼はあれよあれよという間に50段を積み上げてしまう。このペースでは夜明けまでに完成してしまいそうだ。何か手を打たねばと頭をひねる権現さまだったが、そうこうしているうちに99段まで積み上がり、もう最後の石を置くだけとなった赤鬼がほっと一息ついたとき、夜明けを告げる鶏の鳴き声が響きわたった。赤鬼は「ああ油断せり」と退散。しかし、じつは先の鶏の鳴き声は権現さまの物真似。この奇策によって村人を救い、99段の石段は今もなお参道として麓と磨崖仏を結んでいる。

 類話は、西に10kmほどの宇佐神宮の蛇堀池にも見られる。ここでも夜明けまでに100段の石段という難題と、99段のところで鶏の鳴き声で逆転するという話の構造は同じだが、蛇堀池の場合は鬼ではなく蛇である。

(文・写真:市原千尋)

 

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熊野磨崖仏から北に9kmほどのところにある「鬼城岩峰」。奇岩つらなる山頂近くに大きな横穴が見える。鬼が棲むといわれた。

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赤鬼が一晩で築いたといわれる99段の乱積みの石段は、熊野磨崖仏への参拝路として現在も使われている。

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石段を上った先に左手に見えてくる磨崖仏。高さ8mの不動明王像は平安時代末期の作とされ国の重要文化財に指定。不動明王といえば憤怒の形相を思い浮かべるが、ここの不動明王は柔和でどこか笑っているようにも見える。

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乱積みの石段は長い年月、参拝客の足に磨かれてすっかり角がとれている。入口で杖を貸してくれる。

 

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磨崖仏への石段への入場の際に貸してくれる杖。樹脂製の石突きの消耗が、乱積みの石段の険しさを物語る。今回の旅のお伴はマリンマン・シーホース。セラミックベゼルを装備したメイド・イン・ジャパンの機械式ダイバーウォッチ。