2015.4.27

「回転ベゼルに付いてる変な目盛りは何?」

ケンテックススカイマン683など、腕時計には「回転計算尺」が付いているものがある。1940年代から登場し始めた技術者向け製品であり、のち航空パイロット用に特化したブライトリングナビタイマーなどに繋がってゆく。これは電卓のない時代、掛け算や割り算をおおよそにでも素早く計算するためのものだ。なにぶん、揺れる狭いコックピットでソロバンを弾くのは現実的ではない。

回転計算尺は「計算尺」を腕時計用に丸めたものだが、いずれにせよ普通の人にはあまり馴染みがなく、均等でない目盛りに大量の数字が振られている外観には、(「何となくカッコイイ」とは思っても実際使えるかと言われると)戸惑ってしまうだろう。ここでは回転計算尺の使い方を、その仕組みの理解から始める形で解説したい。なお計算尺はいまだに、電池の入手や電子機器が壊れた場合の修理が難しい途上国では、電卓に代わって日常的に使われているそうである。

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回転計算尺付きの腕時計(スカイマン683)。最外周の方角目盛りは回転計算尺とは別で、その内側の、2周にわたって同じ細かい目盛りがある部分が回転計算尺である。ベゼルを回すと2周のうち外側だけが、重く滑らかに動く。

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回転計算尺付きの腕時計(JSDFチタンナビゲーション)。同じく。


計算結果を作図で求める

ある人が3+2を計算しようとしたとする。この人は暗算が全くできないか、酸素ボンベなしで高空を飛行中だったりヒマラヤ登山の最中だったりで頭が回らない(実際、酸欠状態だとごく簡単な計算もできなくなるらしい)としよう。むろん電卓も持っていないが、なぜか手元に普通の定規が2本ある。どうするか?1本目の定規の3cmのところに2本目の0cmを当て、2本目の2cmが1本目のどこに来るかを見ればよい。こうして計算ではなく作図により、この人は5という結果を得ることができる。また、もし3-2を計算したければ2本目を逆向きに当てることで、やはり1という結果を得るだろう。

では、掛け算や割り算はどうにかなるのだろうか。むしろ足し算引き算よりもこちらのほうが難易度は高く、暗算を回避できる意味は大きい。この場合普通の定規ではなく、対数目盛りの定規があれば可能だ。

対数とは数そのものではなく、その数が10なり何なり、基準とする数の「何乗であるか」ということだ。基準とする数が10なら、「0が何桁続く数か」と言い換えてもよい(常用対数という)。例えば1000×100は10万であるが、これは10の3乗×10の2乗と考えることもでき、都合10を5回掛け合わせているから、0が5個続く100000なのである。さらに、平方根は0.5乗(2乗すれば元に戻る)であり、10の0.5乗は約3.16ということになる。また、マイナスN乗というのはN乗した数で割ることを意味する。1000÷100=10の3乗×10の-2乗=10の(3-2)乗=10なのである。

普通の目盛りが0・1・2・3…と続くのに対し、対数目盛りは10の0乗(1)・10の1乗(10)・10の2乗(100)・10の3乗(1000)…と続く。0乗と1乗のちょうど中間の位置に0.5乗(3.16)があることになり、先へ進むにつれ急激に数の増え方が大きくなる。対数目盛りは巨大な数値をグラフ化する際によく用いられるが、対数目盛りの定規が2本あればそれがすなわち計算尺であり、掛け算・割り算に応用できるのだ。

先の例で定規の目盛りが対数目盛りになっていれば、まさに1000×100が「3cm+2cm」、1000÷100が「3cm-2cm」として計算できる。6×5のような計算も1から6の目盛りまでと5の目盛りまでを継ぎ合わせて、(約)30と読み取ることができるだろう。これは普通の定規で言うとおよそ「7.8mm+7.0mm」の位置を探しているのに相当し、10の1.48乗は約30である。

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3cm地点から2cm進めば5cm。3cm地点から2cm戻れば1cm。

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対数目盛り。べき乗を基準に並べられているため、普通の目盛りとは間隔が異なる。


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6を意味する「7.8mm」地点から5を意味する「7.0mm」進めば、「14.8mm」地点は約30に当たっている。


回転計算尺での計算

直線型の計算尺でも限度はあるが、腕時計の回転計算尺は円周長が限られている関係上、例えば6から60まで1桁分の範囲しかなく、6と60が重なり合っている(中には目盛りをらせん状にして、複数周分にわたって目盛りを連続させているものもある)。この場合6×5も60×5も60×50も区別はないため、計算結果の桁はわからず、残念ながらそこは自力で見当を付けなければならない。だが先頭2つ程度の数字(仮数部という)は求められる。

直線計算尺の時と同じ手順を踏むと、まず「10」が1の代わりであるので内側尺の10から目盛りを追って行き、「60(6)」の位置を見る。そこに外側尺の「10」を当て、外側尺の「50」が内側尺のどこに来ているかを見る。そこに書かれている数字は「30」のはずであり、答えは「3.0×10のナントカ乗」であることがわかる。

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外側の尺だけが回転可能である。

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内側尺の10から60(6)まで+外側尺の10から50(5)まで=内側尺の1周回った30(3)にあたる。


「比」で考えると早い

以上が基本原理であるが、実は「比」の考え方を持ち込むと、より早わかりが可能である。それは「外側尺の○○が内側尺の1に当たるなら、外側尺の△△が内側尺のいくつに当たるか」ということだ。

A×Bの掛け算の場合、外側尺のAを内側尺の10に合わせたとき、内側尺のBが外側尺のどこに当たっているかが答えである。これは「Aを1単位とするならB(A=1ならB=A×Bのはずである)は何単位に当たるのか」という考え方になる。数式で書くなら

AB=x

よってA:1=x:B

ここで両辺はそれぞれ「外側尺:内側尺」の対応する数字

と表現できるだろう。また、

A÷Bの割り算の場合、外側尺のAを内側尺のBに合わせたとき、内側尺の10が外側尺のどこに当たっているかが答えである。これは「AをB単位とするなら1単位はいくつに当たるのか」という考え方になる。数式で書くなら

A/B=x

よってA=Bx

よってA:B=x:1

ここで両辺はそれぞれ「外側尺:内側尺」の対応する数字

と表現できるだろう。
なお外側尺と内側尺の目盛りは同じなので、掛け算も割り算も、外側と内側は逆でも構わない。

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外側尺の60(6)を内側尺の10に合わせたとき、内側尺の50(5)は外側尺の30(3)に当たっている。これは6×5=30であることに相当し、同時に、30÷5=6であることも意味している。

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外側尺の60(6)を内側尺の50(5)に合わせたとき、内側尺の10は外側尺の12(1.2)に当たっている。これは6÷5=1.2であることに相当し、同時に、1.2×5=6であることも意味している。


航空計算尺の応用問題

冒頭で触れた航空用回転計算尺では、よく使う計算値を探しやすいよう、専用のマーキングがいくつか付いている。スカイマン683やJSDFチタンの場合内側尺の、60の位置に「MPH(minutes per hour)」、36の位置にその強調表示、およそ38の位置に「STAT」、およそ33の位置に「NAUT」である。

「MPH」は、時と分の換算(または分と秒の換算)に使う。A時間が何分かを知りたければA×60の計算をすることになるので、外側尺のAを内側尺の10に合わせたとき、内側尺の60すなわち「MPH」が外側尺のどこに当たるかを見ればよい。逆にA分間が何時間かを知りたければA÷60なので、外側尺のAを内側尺の「MPH」に合わせたとき、内側尺の10が外側尺のどこに当たるかを見る。「36」のマーキングも同様で、これは時と分の換算用であり、1時間が3600秒であることが根拠だ。

「STAT」は、マイルとkmの換算に使う。Aマイルが何kmかを知りたければA×約1.6の計算をすることになるが、STATがついている約38という位置は、実は60÷1.6を意味する。その結果、外側尺のAを内側尺のSTATに合わせたとき、内側尺の60が答えを示すようになっている(A×1.6=A÷38×60となるから、一旦A÷38の操作をしてから、さらに続けてそれを60倍した結果が、内側尺の60のところに現れることを意味する)。kmをマイルに換算する際も読む順番が逆になるだけで、計算尺は全く同じ状態になる。「NAUT」は同様に、マイルでなくカイリの場合用である。

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MPHと36(内外両方に印がある)。写真の状態はちょうど1時間=60分=3600秒の換算を意味するものでもある。

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STATとNAUT。写真の状態はちょうど60km=約38マイル=約33カイリの換算を意味するものでもある。