「トーヤ」がつなぐのは、島の暮らしと厚い信仰。

 峻険な半島が幾重にも海に突き出し、北欧のフィヨルドにも例えられる豪快な景観に、白い漁船を係留した小さな漁港。猫の額ほどの平地に軒を寄せあう集落のひとつに、下天草島の崎津がある。

 天草といえば禁教時代、多くの隠れキリシタンが弾圧に耐えて信仰を守ってきた地。崎津天主堂の尖塔がフィヨルドの山海にそびえる荘厳な姿は、250余年にわたり堪え忍んだこの土地の不屈の精神を映しているかのようだ。

 教会の周辺は平屋建ての民家が屋根を寄せあっており、くっつかんばかりの軒と軒のあいだに「トーヤ」と呼ばれる小路が通っている。すれ違うには肩をよけなければならないほどの道幅で、悠々と闊歩しているのは猫ぐらいのもの。「トーヤ」であることを示す案内板がなければ、入っていいものか躊躇してしまう。平地の少ない崎津の人々の暮らしの知恵であると同時に、密な情報交換の場でもある。山にへばりつくような隠れた集落のそのまた奥のトーヤで、幕府の目を逃れ、独自の信仰が口伝で次代へと伝えられてきた様子が目に浮かんできた。そしてトーヤはどれも海に通じている。 

(文・写真:市原千尋)

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崎津を抱く羊角湾は、急峻な山と谷が海にせり出すフィヨルドのような地形。

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路地を海の方へと歩いて行くと、とつぜん視界が開け重厚なゴシック様式の尖塔が現れた。「海の天主堂」とも呼ばれる崎津教会。中は畳敷き。祭壇は江戸時代、踏み絵も行われたという。訪れたとき、ちょうど地元の方の葬儀が行われていた。

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天草は旅人を詩人にすると言ったのは司馬遼太郎。著作『街道を行く』でもこの崎津が歴史の舞台として登場する。作家・林芙美子も天草でいちばん好きな港として、この崎津をあげている。

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民家の軒と軒のあいだに通ずるトーヤは、崎津のひとびとの暮らしとともにある。猫もときどき歩く。

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すべてのトーヤはなぜか海に通じている。

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トーヤの先からのぞいた羊角湾。小さな入り江に個人のものらしき舟が係留されていた。この一帯は渚100選にも選定されている。


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今回の旅のお伴はマリンマン・シーホース。セラミックベゼルを装備したメイド・イン・ジャパンの機械式ダイバーウォッチ。