2015.4.17

鉄器とともに

カリフォルニア大学の地理学教授ジャレド・ダイアモンドは、著書「銃・病原菌・鉄」において、この3つこそ、ヨーロッパ人がインカ帝国を滅ぼすなどして世界の覇権を握れた理由だと書いた。鉄器時代は紀元前1500年ごろ中東のヒッタイト帝国に始まり、ここから人類の技術進化は加速する。そしてその頃ヒッタイトに近いアッシリアではすでに、錆びやすいという鉄の弱点を補うため、錫めっきを行っていた。すなわちブリキが、鉄器時代の開始早々にすでに存在したのだ。
めっき技術は、奈良時代までには仏教とともに中国経由で日本に伝わっており、奈良の大仏は青銅の仏像を金めっきして造られた。当時の金めっきは金を水銀に溶かして塗り、松明で熱して水銀を飛ばすという、何の対毒防護策もなかったであろう当時では危険な方式であった。しかしその犠牲の甲斐あって、大仏本体の青銅は1200年以上経ってもいまだに腐食を免れている。

現代のめっき技法はおおよそ、めっきを施したい基材を、めっき材が溶けた水中に晒す「湿式めっき」か、(しばしば真空である)容器中で蒸発させためっき材に晒す「乾式めっき」に大別される。湿式めっきの方が安く大量生産できるので一般的であるが、これはこれで、めっき材などを溶かした反応液の状態管理にノウハウが必要となる。
湿式めっきには電気分解の原理を用いて反応を促進する「電解めっき」と、そうではなく薬剤を利用したりする「非電解めっき」があり、乾式めっきにはめっき材を物理的に吹き付けるに近い「物理蒸着(PVD)」と、化学反応によって基材表面に固着させる「化学蒸着(CVD)」がある。

湿式めっき。電解めっきでは基材をマイナス電極につなぎ、水中で電離しプラスに帯電しためっき材を誘引させる。非電解めっきでは、還元剤を投入するか、基材にめっき材よりイオン化傾向の大きいニッケル等をコートしておくかして、やはり基材をマイナスに帯電させる。

乾式めっき。化学蒸着ではめっき材を熱して蒸発させる。真空状態でなくともよいが、容器内は高温になるのでそれに耐えられる基材に限られる。一方、物理蒸着ではめっき材を蒸発させるのに電子線を当てるなどの方法を取る。また容器内は、めっき材の沸点を下げ、空気分子がめっき粒子の障害物になったりめっき層に混入するのを防ぐため、真空状態にする。


「真空電気めっき」、イオンプレーティング(IP)

物理蒸着法のひとつがIP、すなわちイオンプレーティング(platingは英語でめっき)だ。1964年の論文で発表されているが、それより100年以上前に、電磁気学で名前の登場するファラデーらが、既に同様のめっき作業を行っていたらしい。化学蒸着ほど高温にはならないが、めっき対象の基材は電気を通す必要がある。
イオンプレーティングでは真空中で電子線を当ててめっき材を蒸発させることで、めっき材の粒子が勢いよく飛び出す。そこから基材までの間には、電圧をかけて窒素ガス等を電離させたプラズマ(水中に溶けた固体などが電離するのでなく、気体が電離したもの)が漂っており、めっき材はこれらと結合しながらプラスに帯電。最終的に、マイナスの電極につないだ基材上に誘引される。例えばめっき材がチタン・プラズマが窒素であれば、窒化チタンのめっき層を作ることができる。
こうして電気力の助けを借りることで、めっき材を単純に真空中に放つだけの場合に比べ、基材への密着力が強く、強固な膜になる。ケンテックスクラフツマンで用いられているものは耐押し込み力指標であるビッカース硬度が約2000、すなわち、頂角136度の四角錐のクサビを押し込んで0.1mm角のへこみを作るのに(めっき層の厚さを考慮しない単純計算でだが)20kgの力が必要なことを意味する。これは鋼鉄よりも数倍強く、中にはサファイアクリスタルを超える硬度のめっきもある。
また、イオンプレーティングでは「日陰」にあたる部分にも良くめっき粒子が回り込み、ムラのないめっきが可能である。ただし、尖った出っ張り部には粒子が集まりすぎる傾向があるため、基材にマイナス電荷を送り込む電極をできるだけきめ細かく小分けに配置するか、めっき層を薄くすることが望ましい。なお通常、イオンプレーティングのめっき厚は1マイクロメートル程度のオーダーで、光の波長に近いレベルの薄さだ。驚くべきことに伝統工芸的な表面処理法である「金箔」も、薄いものはこれと同程度の厚さである。

イオンプレーティング。乾式めっきのうち、物理蒸着法に分類される。電気の力でめっき粒子を射出し、電気の力で加速し、電気の力で基材に接着するといえる。


イオンプレーティングの活用

イオンプレーティングは耐食性や耐摩耗性(めっきが強固なこと以外に、表面が平滑化され摩擦係数が下がることの効果もある)、種類によっては耐熱性や潤滑油の保持性能までも向上させる。そこでエンジン含め自動車や航空機などの機械部品や、ドリルチップなどの工具にも用いられる。時計などの装飾用という観点では、めっき材やプラズマガスを変えることで、金、銀、黒、茶など、様々な色合いを出すことが可能である。透明な膜であれば、前述のように光の波長に近い薄さであることから、めっき表面での反射光と基材表面での反射光との干渉色により、虹色にすることもできる。また、あえてイオンプレーティングではない弱いめっきを最上面とした二重のめっきを行う(場合によっては上のめっきだけをわざとはがす)ことで、古びた風合いを出す手法もある。
意外なところでは繊維に抗菌加工を施したり、さらにはチタン+イオンプレーティングの入れ歯で、軽く、抗菌性があり、拒絶反応を起こしにくく、さらには熱伝導率が高いため食べ物を食べている感触が得られやすいというものもあるようだ。

ケンテックスクラフツマン

耐傷性比較

イオンプレーティング処理チタン(左)とノンコーティングのチタン(右)にて、研磨剤入りの消しゴムにより30回擦る耐摩耗性テストの結果