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IWCオーシャン2000

スイスIWC社、1982年(1984年西独海軍採用)
驚異的な2000m防水を誇るダイバーズウォッチで、ケースは当時まだ珍しかったチタン製。デザインはポルシェデザインが担当した。元々市販用であったが、完全非磁性型など3系統の軍用バージョンが追加開発されることとなった。

原潜より頑強な深海のポルシェ

ーシャン2000は、3.4mm厚のドーム型サファイアクリスタル、3重の竜頭パッキン、温度変化によるひずみを吸収する特殊リングなどを備え、その名の通り2000mという驚異的な防水性能を誇る。日本の深海調査艇「しんかい2000」でさえ前年に完成したばかりであり、当然ながらこれに匹敵するダイバーズウォッチは当時まだ存在しなかった。アルマジロの甲殻を思わせるベルトなど独特の印象深いデザインは、F・A・ポルシェ(ナチスドイツ時代のポルシェ博士の孫)率いるポルシェデザインによるもので、根強い人気を誇る。潜水夫にとって酸素残量を知るために重要な回転ベゼルにはロック機構が付けられ、誤動を防止している。
オーシャン2000は、1980年西ドイツ海軍が策定した要求仕様に対し、独VOD社が、子会社であるスイスIWC社をもって当たらせたものである(修理などの関係上、ドイツ国内に代理店がある必要があるため、IWCに直接注文が行くことはない)。このときIWCとポルシェデザインはすでに市販用のオーシャン2000を計画中で、そこに軍用バージョンの開発も追加されることになった。

ソ連機雷作戦の脅威

連のアフガニスタン侵攻など、当時は冷戦の緊張が非常に高まった時代であった。もし実際に「熱戦」に発展した場合、まさに主戦場はドイツと想定され、また西独海軍はソ連による機雷散布を警戒していた。これを受けて、軍用オーシャンは隠密上陸などの戦闘ダイバー用、こちらから機雷散布などにあたる攻撃ダイバー用、そして敵機雷に対する掃海ダイバー用の、3タイプが用意された。
中でも掃海ダイバー用は最も要求仕様が厳しく、一切の帯磁性が許されなかった。外からの磁力に影響されない「耐磁」ではなく、自らが磁化されるかどうかの「帯磁」のことだ。そうでないと磁気感応機雷が炸裂してしまう。元々、市販用オーシャンは帯磁しないチタンケース採用ではあったが(IWCは1980年に初のチタンケース時計「チタンクロノグラフ」を発売するなど、当時唯一チタン加工ができるメーカーと言われていた)、中のムーブメント部品はスチール製であり、これらを非鉄金属に置き換えなければならなかった。
開発責任者ユルゲン・キンクは見事この難題をクリアした。厳密な帯磁テストのために電線などの影響のない、彼の自宅の庭を使用したという逸話もある。ただし代償として耐久性は悪化し、掃海用オーシャンは任務以外での常時着用が非推奨となってしまった。

軍用バージョンの特徴

用オーシャンは防水性300mとなっているが、これは要求仕様上、300mまでしかテストされなかったということである。ただし(読み易さ向上のためか)市販用で曲面だった風防が平面化されたため、実際水圧には幾らか弱くなっているかもしれない。
初期バージョンでは特徴的な金属ベルトではなくナイロンベルト(サイズが可変なため潜水服の上からでも締めやすい。のち金属ベルトも納入されたが非実戦用とされた)、ベゼルは黒で、針の色などにも差がある。ケース裏面には独軍を意味する「BUND」の文字と、「6645-12-XXX-XXXX」のようなNATO備品コードが付けられた(6645は時計類、12はドイツ/西ドイツ軍を意味する)。
比較的要求仕様の緩い戦闘ダイバー用はクオーツ式(cal.2250Qムーブメント)、攻撃ダイバー・掃海ダイバー用は機械式(ETA2890ベースのcal.375系ムーブメント)である。なお西独海軍は艦艇用も含め、電池切れなどまさかの事態を想定すると、毎度手でゼンマイを巻く機械式時計のほうが安心できると考えていたらしい。
ドイツ潜水兵と軍用オーシャンは湾岸戦争時、実際にペルシャ湾で機雷除去作業に従事した。