2014.11.18

巨人タイタンの名を継ぐ強力な金属

チタンといえば「軽く強靭」というイメージがあるかもしれない。チタンの強度は種類により、純粋なものは一般的な鉄材と大差ないか、むしろやや劣るのだが、おおむね密度が鉄の半分強しかない。このため、鉄と同じ強度を得るだけの厚さに作っても、大幅に軽くて済むのである。

ここで言う「種類」だが、比較的純粋なものはJIS1種から4種までの「純チタン」に分類され、1種がもっとも純粋かつ柔らかい。意図的にもっと添加物を増やしたチタン合金は、添加物によってそれぞれ強度や色合いなどが特化されてくる。



JIS 純チタン組成表

純チタンの分類(クリックすると拡大)

純チタンの物理的性質
密度(常温) 4.5g/cm3
融点 1668℃
沸点 3287℃
比熱 0.12cal/g・K
熱伝導率 17W/m・K
電気伝導率 銅の3.1%
比透磁率 1.0001
イオン化傾向 -1.63V

鉄が数千年前から広く用いられているのに対して、チタンという元素が発見されたのは18世紀末。このときギリシャ神話の巨人タイタンにちなんで命名された。さらに、単体として分離に成功したのは20世紀に入ってからだ。しかし必ずしも希少物質というわけではなく、主に酸化チタンの形で地殻中に広く存在する。

現在ではこうした酸化チタンは通常、クロール法と呼ばれる、高温下でいったん酸素を塩素に置き換え、次にマグネシウムを用いてその塩素をはぎ取る方法で還元される。チタンが酸素と結びつく力が強いため、いきなり酸素だけを引きはがすことは難しいのだ。この工程が複雑なことは、チタンの価格を押し上げている一因である。

優しい巨人

しかしチタンの酸化し易さゆえにこそ、チタン製品は表面に再びすぐ酸化被膜ができる。還元するのに苦労するだけあって、この酸化被膜は金などと同様、非常に化学反応しにくい。つまり、「それ以上錆びない」。従って肌や汗に触れても、溶出したりして金属アレルギーを起こすことが少なく、時計をはじめ装飾品によく用いられるほか、骨折治療などの医療用途にも使われる。

さらに熱伝導率が鉄の4分の1以下しかないため、夏冬に触ってもあまり熱く・冷たく感じない。この性質は鍋やコップのほか、金属溶湯作業用の工具にも利用されている。

また透磁率も非常に低く磁化されにくいため、心臓ペースメーカーなどの部品に用いられる。磁力に弱い機械式時計にも(磁力の遮蔽は逆に透磁率の高い鉄で行うが)適任と言えるだろう。

巨人のアキレス腱

チタンは美しく、粘り強い金属だ。だが前述のように、特別頑強というわけではなく、時計のケース素材としては傷がつきやすい。また酸化被膜の厚さに応じて独特の色合いを発する(これを意図的にコントロールして発色させることもある)が、これがデザイン上、不都合となる場合もある。

そこで酸化チタン被膜の利点は失われる代わりに、やはり安定な物質である白金などをメッキして補う方法がある。この場合は表面が平滑化され輝きを増すほか、摩擦係数が低く(滑り易く)なることで、他の物体と接触しても傷がつきにくくなる。

またチタンの柔軟な粘り強さ(引っ張りに強く破断しにくいが、伸び続ける)などの性質は、時計などの装飾品においては、寸法が狂い易い、工具が傷んだり目詰まりする、粉塵が発火する恐れがあるなど、加工のしにくさも意味する。加工方法は日進月歩だが、この加工がうまくできるかどうかは、工作者の腕の見せ所と言えるだろう。

耐傷性比較

IPHメッキ処理を施したチタン(左)とノンコーティングのチタン(右)にて、研磨剤入りの消しゴムにより30回擦る耐摩耗性テストの結果(クリックすると拡大)

ビッカース硬度表

耐磨耗性を表す指標として、IPHメッキ処理などのビッカース硬度の比較(クリックすると拡大)


他の選択肢

他に時計の外装によく使われる素材としては、ステンレス、セラミック、超硬合金、金などがあり、それぞれ一長一短である。ステンレスは、異物と接触しているなど状況によっては錆びることもあり(金属アレルギーも誘発する)、またチタン同様、そのままでは傷がつき易い。セラミックや超硬合金は硬いがもろく、衝撃で割れる可能性がある。金は化学的には極めて安定しているが、物理的には純粋なものなら噛んで歯形が付くほど柔らかい。むろん極めて高価であり、チタンの4倍以上も重い。