2014.10.30

歯車でストップウォッチを作るには

クロノグラフ。

電子式ストップウォッチでない機械式時計で、どうやって時間計測機能を実現しているのだろうか?

平たく言ってしまえば、普段動き続けている時計とは別にもう1セット時計があり、歯車で連結されている間だけ両方の時計が進むのだ。2つ目の時計があらかじめ0時0分にリセットされていれば、その時刻はすなわち、両者がつながっていた時間の長さを意味する。

となると、最も重要なのは時計の動力をつなぐか、切り離すかの「スイッチ」にあることになる。この「スイッチ(クロノグラフ機構)」には幾つかの方式があるが、ここではETA7750ムーブメントなどで採用されている「カム」方式と、NE88ムーブメントなどで採用されている「コラムホイール(ピラーホイール)」方式について扱う。

カム+スウィングピニオン方式(ETA7750など)

カム方式のムーブメント(クリックすると拡大)

カム式ハートピース(表裏):板状部品を組み合わせた構造をしている(クリックすると拡大)


クラフツマン7750などのムーブメントであるETA7750(バルジュー7750)では、「スイッチ」本体であるハートピースが、複雑な形状の板(カム)を3枚重ねた構造になっている。

竜頭上側のスタートスイッチを押すと、このカム式ハートピースが押されて回転し、外周の突起部が、周囲に集まっている幾つかのレバーを同時に蹴ることになる(その後、スタートスイッチはバネの力で戻る)。

このとき蹴られるレバーには、主時計からクロノ時計に動力を分け与える「スウィングピニオン」につながるアームも含まれる。スウィングピニオンは両端に歯車の付いた細長い円柱で、これがレコードに針を落とす時のように主時計・クロノ時計双方の歯車に押し付けられることで、2つの時計が連結するのだ。

ETA7750-2

カム方式の動作(クリックすると拡大):カムが回転し周囲のレバー類と衝突する

ハートカムによるリセット:クロノ針がどの方向を向いていても、すべて0時方向に揃えられる(クリックすると拡大)


カム式ハートピースは巧妙な形状をしており、すでに始動済み状態の角度で再度、スタートスイッチから叩かれた場合は、反対方向に回転して元に戻るようになっている。スウィングピニオンも引きはがされ、クロノの計時は停止する。

クロノをゼロリセットする際は、竜頭下側のリセットスイッチを押すと、リセットハンマーが勢いよく動く。クロノの各針の軸部には「ハート(型)カム」とも言われる、涙滴形の頭部を平らにしたような形状の部品が付いており、回転軸はこの平らな辺の側に著しく寄っている。リセットハンマーは各針のハートカムを同時に押し込みながら、回転軸に接近しようとするが、ハートカムの平らな辺(一番半径の短い部分)がこちらに向いた状態でないとそこまで到達できないため、ハートカムと針は、その向きに無理やり回転させられることになる。これで針のリセットが成立する。

なお、リセットハンマーは動き出すと同時に、クロノ各針の歯車を外すことも行っており、ハートカムと針が自由に回転できる状態に持ち込んでいる。また、クロノの作動中はハートピースの働きにより、リセットハンマーは動作しないよう、外されてもいる。

コラムホイール+垂直クラッチ方式(NE88など)

ETA7750は精度とコストのバランスに定評があり、1974年に誕生後、40年間も名ムーブメントとして君臨してきた。とはいえカム方式は低コスト、かつ形状の微調整も比較的容易な代わりに、物理的パワーへの依存が強いためスイッチの操作が重く、精度面で限界があるとされる。

それに対し2014年発表のNE88では、製造・調整が難しい代わりに動作精度の高い、コラムホイール(ピラーホイール)方式を採用している(機構の発明自体はカム方式よりコラムホイール方式のほうが古い)。また動力伝達にも、厚みが膨れる点を解決できる設計力が必要な代わりに低ロス高精度な、垂直クラッチ方式を採用した野心作だ。

コラムホイール方式のムーブメント:ホイールは歯車つき円盤に柱が並んだ構造をしている(クリックすると拡大)

コラムホイール方式の動作:柱の位置によってクロノやリセットの作動可否が変わる(クリックすると拡大)


コラムホイール方式のハートピースは、円盤の上に三角柱あるいは四角柱の柱(コラム、ピラー)が並んだ構造をしている。また円盤のフチには、柱1本につき2歯の、傾いた歯車が付けられている。

スタートスイッチを押すと、フックが引かれてこの歯車をひっかけ、1歯分(柱の周期の半分)だけ動かす。すると周囲のレバー類は、柱のある所に居るか、ない所に居るかの位置関係が反転する。計時中、動力伝達機構のクラッチレバーは谷にはまりこんでおり、これは稼働状態を意味する。逆にリセットスイッチは柱に邪魔されて押し込めない。

再度スタートスイッチが押されると、ホイールはやはり同方向に同じだけ回転し、クラッチレバーは柱に乗り上げて外れ、リセットスイッチは谷位置にあって押し込み可能となる。

また垂直クラッチ方式では、主時計とクロノ時計が本来ならば垂直につながって一緒に動こうとするところ、両側から迫るツメ状のクラッチ部品が間に挟まって、普段はこれらが分断されている。クラッチレバーがホイールの谷間にはまると、クラッチ部品は両脇に退き、クロノの計時が開始されるのである。

クラフツマン7750:ETA7750を採用(クリックすると拡大)

クラフツマン25周年記念特別限定クロノモデル:NE88を採用(クリックすると拡大)


なおNE88は他にもルビー使用数を増やし(ETA7750は25個・NE88は34個)、精度と耐久性を追求している。宝石のルビーは高価だが硬いため、軸部のような摩耗の多い部品に使われるものだ。